メッツ銀座絵画教室の日曜日担当している講師の阿部です。太田義道会員の鉛筆画を紹介します。
今作はアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」からヒロインの一人レムのフィギュアをモチーフに制作したものです。太田会員は長く教室に通われている会員です。着彩による表現は行わず、鉛筆デッサンを長く続けています。教室内のモチーフ、模写に加え、定期的にフィギュアをモチーフにして製作します。そしてこの作品は太田会員のきっかけの作品といっていいほど高い完成度で仕上げられました。
観ていただければわかる通り、とても丁寧に、精密に描写されています。フリルがついた装飾的な衣装ですし、手先や小道具も大切な構成要素です。特に眼はキャラクターの命です、こだわりを持って仕上げられているのがわかりますね。(後半眼を描写している時、見ているこちらにも緊張感が伝わってくる程集中している姿はよく覚えています。)
また今作の魅力に明るいものが明るく感じられるように描かれていることが挙げられます。
色数としては髪の水色、服の黒と白、台の灰色とシンプルな配色ではありますが、立体物としてある以上、光と陰影の関係を描写する必要があります。白いものにも陰の色合いが帯びることでハーフトーンへと変化します。明度をしっかりと合わせて描写できたので、明るさを感じる調子で表れていますし、モノクロでも色彩を感じることができますね。陰の調子にも透明感が感じられます。これによって服や肌の明るさがわかる表現となりました。
また実は眼の中も塗り潰さず描きこまれていて綺麗です。ここはフィギュアではわかりづらいところだったのでアニメの眼も参考にしました。
そしてこの作品で得た全て描きこむという着想が次の作品へ繋がってきます。
一見普通のヤカンのデッサンですが、鏡面に映り込んだ像を徹底的に描写するという作品になりました。鏡面の世界には作者自身と取り巻く環境、照明の光に、台にはくしゃくしゃにしたビニールが敷かれています。根気よく作品に取り組みました。観察して見つけたものを全て描き込んでしまおう!という気概を感じます。ヤカンの鏡面を通して見る室内風景画とも言えますね。
また、この作品の魅力は描き込みだけではありません。先の作品でも触れたように、明暗の調子をしっかり合わせて描写されているので、照明の明るさや金属の質感、取っ手の質感といった基本的な描写が安定していることです。鏡面を描きこむというコンセプトが面白くても、形や調子が悪くては表したいものが表れてきませんね。この作品は太田会員の実力に裏打ちされた作品だということです。
今回紹介した二つの作品は長い期間をかけて制作されています。完成まで気持ちを維持して駆け抜けられたように思います。
制作が長期間に渡る場合大事になってくるのが、モチベーションです。形にするのが難しい作品ほどモチベーションを維持して作品に向き合う胆力が必要です。維持の仕方は制作者によって様々な向き合い方があるでしょう。借りものでない正直な心から出た表現が作品に説得力と、それを実現する描く体力を与えてくれると思います。太田会員の制作姿勢からそのようなことを思い起こしました。