セルベイラ・ビエンナーレ、レポート

こんにちは。月曜日担当の佐竹です。
今年の夏、私はポルトガル、セルベイラ・ビエンナーレ展、レジデンス・プログラム参加のため渡葡致しておりました。普段教室では会員の皆様にデッサンや油画の制作をお手伝いさせていただいておりますが、この場をお借りして、私のアーティスト活動と現地のルポをご紹介させていただきます。
 
本年で32回目を迎えるセルベイラ・ビエンナーレ展は、ポルトガル最大の国際芸術祭です。会場のセルベイラはポルトガル北部、スペインとの国境に位置します。ヨーロッパ諸国はもとより、中南米、アフリカ、アジアの各国から、絵画、彫刻、インスタレーション、ビデオアートなど様々な現代アートが集います。
 

セルベイラ城から教会を望む
 
夏から秋にかけて2ヶ月(7~9月)の会期中には、レジデンス・プログラム、ワークショップ、パフォーマンス、コンサートなどのイベントが催され、連日深夜まで賑わいます。
私はオープニング・セレモニー(7月)から1週間滞在し、現地制作をしてきました。
オープニング・セレモニーには大統領の会見もあり、メイン会場のフォーラムは大変な賑わいでした。ビエンナーレの展示構成は、キュレーター企画とコンクール部門にわかれており、キュレーター企画はそれぞれのコンセプトに則って、作家が招聘されます。コンクール部門は若手作家の登竜門として、各国から多くのアーティストがチャレンジしています。会場はセルベイラ町内の各所に点在し、ビーゴ(スペイン)、ポルトなど都市部にも設けられています。
 

オープニング・セレモニー
 

メイン会場、フォーラム内
 

コンクール部門(アンドレア、ポルトガル)
 

キュレーター企画(ガイオ、ブラジル)
 

パフォーマンス(ダニエラ、イタリア)
 
レジデンス・プログラムには各国から8名のアーティストが招聘され、共同のスタジオと宿、食事が提供されます。アーティストは順次入れ替わり、私の滞在時は4名のアーティストと共同で過ごしました。レジデンス・アーティストの他に、パフォーマンス・アーティストも宿泊し、親交を深めました。ポルトガルのアーティスト、マリアとウーゴ、ポルト大学生二人による「Eco Performance」は本展に出展のアーティストの名前を読み上げ、タイプするといったものです。二人には私の制作のモデルを了解してもらいました。私は滞在中にこの写真をもとにした木版画を制作しました。
 

パフォーマンス(マリアとウーゴ、ポルトガル)
 
スペインのアーティスト、イライラは、フォーラム壁面に36時間かけて壁画を描き、来場者は次々と絵が変わっていく様子をみることができます。描き出しは鳥の絵でしたが最後は牛になっていて非常にユーモラスで力強い作品でした。
 

パフォーマンス(イライラ、スペイン)
 
滞在したレジデンス・スタジオは会期中、見学自由で色々な訪問客が訪れます。
 

アーティスト・ハウス(レジデンス・スタジオ)
 
レジデンス・アーティスト、ブラジルのパウラは現地でインスピレーションを得た小説を書き、それらを編んだインスタレーションを作成しました。プロセス・アートと呼ばれる手法で、来訪者は設置された文字を読むことで能動的に作品に参加することができます。
 

レジデンス・アーティスト(パウラ、ブラジル)
 
スペインのノリアはインターネットと現地取材の両面から架空の地図を作成し、順路を辿った道を描きます。木版に彫り、空刷り(エンボス・プリント)した作品を制作しました。
 

レジデンス・アーティスト(ノリア、スペイン)
 
私はマリアとウーゴに贈る小さな木版画を作りました。制作には日本の伝統的な浮世絵の技法(水性木版)を採用しました。細かな彫刻刀を使って版木を彫り、和紙に水彩をバレンで摺りこむ独特の手法は、訪問客にとって珍しく、好評でした。
 

制作の様子(版木の彫り)
 

完成作品(水性多色摺り木版画)
 
ノリアも強く関心を持ち、来年春には奨学金を得て、日本の私のスタジオへ木版画研修のため滞在することが決まりました。こういった偶然の出会いがアートで繋がってゆく様は、何とも不思議で嬉しく思います。私も来年秋には再度渡葡し、古都ポルトでのグループ展を計画しています。私達はアートを通じてささやかで、小さな橋を渡しているのだと思います。
 

丘の上のレストランにて
 
 
佐竹宏樹記